今回は、私達の「記憶」についての話を脳の仕組みからご紹介します。今回の記事では「記憶の仕組み」を簡単な形でご紹介し、次回、じゃあ、「記憶力を科学的に高めるにはどうすればいいのか?」についてご説明し、次々回で更に「追加の情報」を付け加え、合計3記事でまとめていきます。「記憶って面白い!」となってくれたら嬉しいです。
では、早速いきましょう!
脳に関する科学の歴史は浅い
現代において、「私達の脳は細胞が集まって出来ている。」というのは誰もが知っている事と思いますが、これが分かったのは、実は今からたった100年前の事です。
「脳以外の身体が細胞から成り立っている」という事に関してもっと古くから分かっていた事ですが、脳だけは「神秘的ななにか」とされていて、科学が介入するべきでは無いとの見方が強かったんです。
ところが、知る人ぞ知るゴルジさんとカハールさんの手によって
「脳にはニューロンという神経細胞があるんです。」ということが証明され、世間に広まっていきました。この発見によってお二人は1906年にノーベル賞を受賞しました。
そこから現代に至るまで様々な事が分かってきました。
何歳であっても脳は常に変化をし、その変化を維持する事(脳の可塑性)などは特に、多くの人に希望を与えるんじゃないかと思っているので何度もご紹介しています。
私達はいつからでもスタートラインに立つ事ができるんです。
そして今日はその脳機能の中でも、記憶についての内容を掘り下げていけたらと思っています。
記憶といえば「海馬」
記憶といえば、多くの方が「海馬」で取り扱っているとお思いだと思いますが、この認識。ちょっと違ったりします。実はずっと海馬に記憶があるわけでは無いんです。
こう言うと驚かれる方も多くいらっしゃると思いますが、私達の経験した事が情報として海馬に入っていき、数ヶ月から数年かけて、その記憶は別場所に移されます。
つまり海馬にとどまっている記憶は、そんなに長い期間ではないという事です。
私達の記憶は
「5感による経験とそれを判断する脳部位」→「海馬」→「別場所(主に側頭葉)」
へと情報として場所を移動していきます。
ここまでについてはなんとなく「そうなんだ」くらいで全然いいと思います。
そしてここからが大切なポイントです。先ずは大きな括りで「記憶には2種類ある」という事をご説明できればと思います。
短期記憶とは?
記憶には大きく分けて2つがあります。
それが「短期記憶」と「長期記憶」です。
短期記憶とはその名の通り、非常に短い時間でしか覚える事が出来ない記憶の事です。大体15秒~30秒のほんの少しの間覚えておける記憶の1つです。
例えば
何かを思いついたときに、少しだけ後回しにしたら「あれ?なんだっけ?」ということが起きる時がありますよね。
これは、誰でも起きるので物忘れが酷いわけじゃないんです。
更にこの短期記憶は、時間が短いだけでなく、その容量も結構小さいです。
私達が短期記憶によって覚えていられるものは、人によって少しだけ違いますが大体5~9個。「平均して7個」くらいの事柄を覚えておく事しかできないものなんです。
「7個くらいしか一度に覚える事が出来ない」という点はとても重要です。逆に言えば7つまでなら覚えていられるという事です。
この観点から見てみると、
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」という音階も7つだったりするわけです。
私は音楽に詳しいわけでは無いですが、おそらく音階を表すようなものは他にもあったけど、ドレミがなんだか覚えやすいからこれでいこうか!となった可能性はあると思います。
また、アルファベットを覚える際に「A、B、C、D、E、F、G」の7つの塊ごとに覚えたと思います。これも短期記憶の性質にガッチリはまってますよね。
こう考えると、一工夫で覚えやすさは格段に挙がることが分かります。
さらに今回はこの性質を応用してみたいと思います。
例えば、
以下の11桁の数字を覚えてみてください。
「1、1、9、2、7、1、0、1、8、5、3」
ごめんなさい。少し大変ですね笑
そもそも先程言った短期記憶の容量を大幅に超えているので、ちょっと無理がある問題でした。すいません。しかし、この覚えられない数字を「簡単に」覚える方法があります。
これではあまりに覚えにくいのでひと手間掛けてやります。
そのひと手間とは
「1192」と「710」と「1853」に分けてみることです。分けてあげると、
「鎌倉幕府」と「平城京」と「ペリーさん来航」になりました。
鎌倉幕府は1185年に変わったみたいですけど、こっちのほうが分かりやすいかなと思いました笑。
また、1853年がペリーさんの黒船来航と分からなかった人は、このように覚えてください。
「いや(18)でござ(53)んす、ペリーさん」
語呂合わせをするととても覚えやすくなります。
ペリーさん来航の年を覚えたくなかった人はごめんなさい笑。
7つは限界ギリギリの数字なので頑張れば覚える事ができます。また、それを超えるような物事は、一工夫してあげるともっと簡単になります。
11も覚えなきゃいけない事は3つにしてあげると格段に楽になります。
短い時間しか覚えていられなくて、その容量も小さいのが「短期記憶」の特徴です。
「短期記憶」の性質が分かってもらえた事と願いながら、次は「長期記憶」についてみていきます。
長期記憶とは?
短期記憶をめいいっぱい使いながら、少しずつ覚えていく事で、短い時間しか覚えていられなかった事は、長い時間覚えていられる、「長期記憶」になります。
おそらく一般的な記憶とは、こちらの長期記憶を指しているんじゃないかな?と思います。
この長期記憶には沢山種類があります。ちょっとややこしい所もあるんですが、理解していただけるよう尽力いたします。
エピソード記憶
一つ目は記憶の中でも「最も高次元なもの」です。
「いつ、どこで、なにを、どのようにしたか?」という経験した事の記憶を「エピソード記憶」と言います。
「今までの経験で、楽しかった事はなんですか?」と言われ思い出せることがこの「エピソード記憶」です。あくまで自分自身の経験から思い出す事がこの記憶にあたります。
意味記憶
次に高次元な記憶は「意味記憶」といいます。
英単語の意味や、先程のペリーさん来航の年など、知識として蓄えるような記憶を「意味記憶」として覚えています。
「今までの経験で、楽しかった事はなんですか?」と言われ、「ペリーさんの来航です!」と答える人はあまりいないと思います。笑
これが「意味記憶」です。
ところがここがややこしい所で、学んだ経験自体が、そもそも「経験」ですよね。そうすると「自分の力で覚えた事は全部エピソード記憶になるんじゃないの?」となりそうなのでここで少し説明を加えます。
例えば、
「ペリーさん来航の話がとても面白かった!」とした場合、「話を聞くという経験」と、「その話から生まれた知識」とで分かれています。
話を経験した部分は「エピソード記憶」に。その知識は「意味記憶」になるんです。
なんともややこしいですが、この違いは、次回の記憶力の記事ではとても重要になります。
以上、エピソード記憶と意味記憶の2つが、人間が持ちうる「高次元な記憶」です。
この2つが長期記憶の中でも、別名で「陳述記憶」といったりもします。
ちょっと分かりにくいしこんがらがりそうなので、要は「意識して思い出す時に使う、高次元な記憶」位の認識でいいのかな?と思います。
ここから先でご紹介するのは、上の2つよりもレベルが低いものです。なので、もう少しざっくりとした内容でお送りします。
身体で覚える潜在的な記憶
先ほど上で出てきた「意識して思い出す時に使う、高次元な記憶」である、出来事の記憶「エピソード記憶」と知識の記憶「意味記憶」とは別に、
「意識せずとも、なんとなく出来ている記憶」というものも存在します。これを「非陳述記憶」といったりしますが、とりあえず「意識せずとも、なんとなく出来ている記憶」くらいで押さえておけばいいかな?と思います。
シュートを打つのが上達したりする「練習の成果」や、歯を磨いたり、箸を使ったり、服を着たりという「日常の動作」を簡単にこなせるのは、何度も繰り返されて、その動作を「記憶」しているからです。
これを記憶というと違和感を覚える方もいらっしゃると思いますが、少しずつ覚えたからこそ、当たり前のように感じているんです。
そんな「意識しないでも、なんとなく出来ている記憶」の中でも
個人的に面白いと思うものを紹介します。
再びで申し訳ないですが、
以下の文章を読んでみてください。
「アンパンマン」は世に出た当初、実は人間の姿をしていました。
ジャムおじさんが作ったアンパンに空から降ってきた「いのちの星」が宿って「アンパンマン」が誕生したんです。ジャムおじさんによれば幼少期の時点から「アンパンマン」は飛ぶ力を持っていてジャムおさじんを持ち上げられるくらいの力も持っていたそうです。ぼくらのヒーロー「アンパンマン!」
今読んでいただいて、お気づきになった方もいらっしゃるかと思いますが、おそらく多くの方が気付かないであろう事が起きていました。
「じゃむおじさん」が3回ほど出てきていますね。
実はその3回目の「じゃむおじさん」は「じゃむおさじん」になってるんです。
これは、前に見た同じような文章は、そうだろうと記憶し、文字が間違っていてもそのまますんなり読めてしまう「記憶」のひとつです。
「プライミング記憶」といいます。
勘違いのもとにもなるこの機能ですが、悪い事ではなくて、私達が1語1語丁寧に読まないでも済むようにしてくれているという点では、むしろメリットとして働いてくれています。
私の打ち込み間違いを目立たなくしてくれてありがとう!な記憶が「プライミング記憶」です。
以上が、長期記憶です。
ここから更に、
記憶がずっと海馬に貯蔵されていない根拠。
また、「実は、そもそも海馬を通っていない記憶がある」ということについて触れていきたいと思います。
海馬を摘出した人から分かったこと
病のために、仕方なく海馬を摘出した人がいらっしゃいました。
この方は、経験した事である「エピソード記憶」や知識などの「意味記憶」を残念ながら、新しく覚える事が出来ません。覚える事ができなければ、当然思い出す事は出来ません。
しかし、この方によって、2つの事が分かってきました。
・新しく覚える事が出来ないだけで、摘出以前の過去数年前からの記憶は鮮明に残っている事。
・経験や知識は新しく覚える事ができないが、海馬を摘出した後であっても身体で覚えるような、「練習の成果」や「日常の動作」は全く問題なく覚えられる事。
この2つはとても大切なところです。
つまり、どういうことかというと
新しい事を覚える事ができないけど、過去の事は覚えている。という事は過去の記憶は別の場所に移され貯蔵されているという事ですよね。ずっと海馬に記憶を貯蔵していたなら、これは起きません。
そして、「意識せずとも、なんとなく出来ている記憶」に関しては、私達と変わりなく覚える事ができる。という事はこれらの記憶は「海馬を通ってはいない」という驚きの事実です。
高次元な記憶が、海馬から別場所へ移される期間は、今のところ明確に分かっていないようです。個人差だったり、その人がどのくらい多く、そして強くそれを記憶に残そうとしているのかによってかなり変わることが要因なんじゃないかと思います。
大体1ヶ月から数年にかけて別の場所に移されるんです。
要は、「記憶には沢山の種類があって、しかも海馬を通っていないものがある」ということですね。
かなり大雑把な説明になりましたが、今回はこの辺にしたいと思います。
ちょっといつもより長くなってしまってすいません。
次回は、今回の記憶の種類を最大限利用して、記憶力を科学的に向上できたらなと思っています。
今日のあなたの一日が「記憶の仕組み」を知る一日である事を願って。
読んでいただきありがとうございます!!